2018年をふりかえる(前篇)

弟は毎年年末になると、facebookに割と丁寧な一年振り返りの投稿をする。

面白そうなので、私もやってみる。どんなこと、どんな本が印象に残っているか。

読書メーターを誰にもフォローされず、フォローせず、つけている。一応最後まで読み終わった本だけ登録している。どの時期にどんな本を読んだか分かる。絵日記に月ごと1ページにつけていたときのほうが良かった気がするけれども、読書メーターのほうを続けている。年末の振り替えに便利かも。

 

1月

年末から修論をしていた。この時期は食べることしか楽しみがなかったので、体重のことは考えないで、好きなだけ食べて論文を書いていい! としていた。

1月10日あたりに修論を出して、次の日は近くの街をぶらぶらした。銭湯に入ったら、色々な魚の絵が描いてあるお風呂だった。

読書メーターによると、2018年最初に読み終わった本は小沼丹の『懐中時計』。付き合っている人の本棚から借りてきた。初めての小沼丹。付き合っている人は、「懐中時計」しか読んでいないけれどもよかったよ〜、と言っていた。収録作でたくさんの人がふと亡くなることが多くて、死が避けられず身近にあること、それを感傷的になりすぎずに淡々と書いているその温度がより切なくしんみりして、でも読み手も感傷的になりすぎず読むことができて、とても好きな本になった。

 

2月

またひとつ年をとる。日記によると、誕生日には銀座の銭湯に行ったそうだ。タイルがきれいだったのを覚えている。付き合っている人と誕生日が一緒なので、向こうの仕事終わりにタルトを一緒に食べた。あと、ずいぶん前に喧嘩したっきりだった友人から連絡が来て、わぁ、とうれしびっくりした。

集中講義があったり、口頭試験があったり、修論を出してもいろいろあったが、母とウィーンとブダペストへ旅行した。かつてものすごく英語にコンプレックスがあったのだけれども、えいや! っと、昨年にイギリスへ短期留学したことで、旅行くらいの英語ならたぶん平気くらいの自信がついたので、いままでの旅行とは違っていろいろなことができて楽しかった。ウィーンからブダペストまではまだ辺りが真っ暗な早朝の電車で行った。夜行列車扱いの電車だったからか、通路と座席がガラスで仕切られていた。6人用のブロックに乗り合わせたハンガリー人女性と思われる人が、車掌の切符チェックにひっかかり、お金を支払わされて泣いていた。たぶんずるをしたのではなくて、手続きが不十分で二重支払いになってしまったんだろうな、という雰囲気で、その隣に座る、知り合いではなくただ乗り合わせただけという感じの女性が慰めていた。私はたぶん言語の聞き分けや習得などがあまり得意でなくて、車掌や女性たちが話していた言語は初めて聞く言語に思えた。

行き帰りの飛行機では、「やさしい本泥棒」、「グレート・ギャツビー」の映画を観た。レオナルド・ディカプリオさんが、「私がギャツビーさ」というところがとても豪華でかっこよくてすごすぎて笑った。フィンランド経由だったから、凍っている海などが飛行機の窓から見えた。

2月はやっと『ノルウェイの森』を読み通せた。飛行機で読んだような気もする。大学生のときに観た映画が結構好きだったけれども、何度も途中で止まってしまっていた。上巻がとても面白かったのだけれども、下巻が失速した感じがあった。好みの問題だと思う。

 

3月

仕事に戻った。2年間くらい離れていたので不安だった。

大学院の修了式があった。正直大学院にはあまり馴染めなかったな、と思うし、同級生たちともそれぞれ忙しく、毎日顔を合わせていただけだったけれども、ふともう会わない人もいるのだなと思うと、あとでほんのり寂しくなる。中学、高校の卒業式のときもそうだったけれども、だいたいそういうことは終わってからふと気がつく。

3月は『フラニーとズーイ』を読んだ。美形で頭の良い二人と私は全然共通するところがないけれども(そもそも登場人物と私に共通点があるかどうかなんてなにも関係ないしどうでもいいのだけれども)、かみ合わない兄妹の会話の中に、高校生のときや大学生になったばかりのころの、むき出しでひりひりした気持ちをちょっと思い出してしまった。『ナイン・ストーリーズ』も友達に教えてもらって、途中まで読んだ。「コネティカットのひょこひょこおじさん」はウォルトがどういう人か、エロイーズにとってどんな人だったかが活き活きと伝わってくるところ、「小舟のほとりで」はブーブーのユーモアで息子を元気づけるところ、家族と生きていく強さみたいなものが感じられて、好きだと思った。

 

4月

上司が替わった。緊張の四月。でもそんなに仕事は忙しくなかった。

シェイプ・オブ・ウォーター」を観た。寂しさに寄り添っていた良い作品だと思った。その前に観た「グレーテスト・ショーマン」はとても面白かったけれども、”変わり者”の人たちを描いているけれども、なんか距離を感じる・・・・・・という思いがぬぐえなかったのだけれども、「シェイプ・オブ・ウォーター」はひとりで暮らして夜に清掃員として働くなんとも言えない寂しさ、疎外感、そこに生まれる鮮やかな気持ちなどが自然に伝わってきて良かった。この2作を比較するのがそもそもおかしいのだけれども、何と比べなくても「シェイプ・オブ・ウォーター」はいい映画だった。近くの映画館でやっていたのに見逃して、遠くの映画館に観に行ったのも思い出。

4月は小沼丹『小さい手袋』を読んだ。表題作「小さい手袋」を電車で読んだとき、なんだかすごいものを読んだなぁという衝撃があった。なんとない顔をしているすれ違う人の顔の裏に、その人の人生が隠れていて、ふとめくれてはもとに戻るような、そのさりげなさがかえって印象に残る、ような。

初めての獅子文六『断髪女中』を読んだ。尾崎翠が晩年読んでいたという獅子文六

最初は面白い! 面白い! と読んだけれども、途中から少し飽きたような、でも面白かったと思う。熱海にある貫一・お宮の前日譚が印象に残っている。

 

5月

仙台に行き、友人と林明子展や大学の植物園に行った。在学中一度行ったきりの植物園は、鈴のような花の付いた木、ふわふわした綿毛の木、蔓に絡まれて落ちるに落ちられない枝など面白いものがたくさんあった。友人が「最近女子卓球選手に似ていると言われる」と言っていて、本当に髪型からなにまでよく似ていて笑ってしまった。

また、盛岡では秋田県在住の友人と落ち合い、散策した。古本市・古本屋で、駒井哲朗の版画が装丁に使われている三好達治の随筆集や装丁がかなりかわいい森田たまの『ヨーロッパ随筆』を買った。盛岡で食べた冷麺・じゃじゃ麺はかなり美味しかったし、光源社の可否館はおしゃれだったし、友人と歩いた川沿いは少し風が肌寒かったけれどもほっとする景色だった。

仙台から盛岡へのバスで小沼丹『黒いハンカチ』を読んだ。友人推薦の本。正直、私は『懐中時計』、『小さい手袋』の方が好みではあるけれども、インドうぐいす女史というあだ名がなんだか好きになってしまった。続編があったら本当に読みたい・・・・・・と思わせる本だった。

あと、女性が落下する話について、うすうす思っていたけれども私はやはり本を読んで、そこに出てくる建物をある程度はっきりイメージすることが全然できないらしく、よく分からない・・・・・・となってしまって、ちょっと凹んだ。

下旬には、友人と葉山に行き、天気が良く海がきれいで、泳ぐ魚を見て心が和らいだ。おいしいものをたくさん食べ、のんびり話した。

武田百合子『ことばの食卓』を読んだ。「牛乳」が好き。図書館で借りたら、ハードカバーのもので、エメラルドグリーンが鮮やかだった。ハードカバー版がほしかったが、なかなか見つからず、先日文庫版を買った。

 

6月

職場でたけのこが生えたので、あく抜きなどして食べていた。大妻女子大で梶井基次郎の直筆原稿や遺品を見られて嬉しかった。夜な夜なW杯を観て、上司と盛り上がった。めずらしく体調を崩して早退したのも6月。土日は9月からの展示に向けて、いろいろな博物館を回ったりもしていた。

多和田葉子の『容疑者の夜行列車』を読んだ。これが今年一番くらいのヒット。

陸続きにたくさんの国が並んでいるヨーロッパでは、国境を越える列車はどこの国に属するのか分からない不思議な存在で、自分は確かに列車に乗って存在してるのだけれども、今、私はどこにいるの? と思えてしまうような限られた時間乗っていて移動している不確かさもあり、その列車の持つ非日常・特異なところが惜しみなく楽しめる小説で、本当に面白かった。

ヨーロッパの列車は全然知っているなんて言えないのだけれども、留学中初めて薄暗い早朝に一人でロンドンへ向かう列車に乗ったときの不安と小さな達成感、母と2月に乗った国境を越える列車のことを思い出した。そうしたら、高校生のころ、小一時間乗っていた電車のことや、仙台から東京方面へ向かう新幹線のことなどさまざまなことも思い出した。わいわい電車に乗るのも楽しいけれども、知らない地で電車に乗るときの楽しさと心細さ、慣れた場所でも一人で電車に乗ると色々考えてしまうこと、そんなことが結構好きで、だから電車も結構好きなのだと思った。

多和田葉子『百年の散歩』もとても面白く、同僚のドイツに詳しい人に色々ドイツのことを聞いた。読んでいる間、もしかして〜〜なのかも? と思ったことが、最後に書いてあって、書かないまま終わるかな? と思っていたのに! と驚いた。

6月は久々に太宰治の「女生徒」を読んで、最後の台詞が全然共感できない、むしろ嫌悪感を覚えてしまう女子高生(女子大生?)だったな、ということを思い出した。

 

後篇(7〜12月)があるかもしれない。